《MUMEI》

「なに、ナニ??マジで機嫌悪くね??なんかあったの?」

懲りずにからかってくる政樹にウンザリしつつ、真尋は「さぁね!」と曖昧に吐き捨てて、自分の席についた。

政樹の言う通り、真尋はすこぶる機嫌が悪かった。理由はもちろん、今朝の電車での一件だ。

だが、そのことを、彼に話すつもりはさらさらない。

政樹は口が軽く、もしも『痴漢された』なんて言った日には、クラスメイトはおろか、学校中に面白おかしく触れ回るのが目に見えてわかるからだ。


つれない真尋の態度にもめげず、政樹は執拗にまとわりついてくる。

「絶対なんかあっただろー?言ってみ?」

「うるさい。関係ないだろ」

「なんだよー、冷たいな、真尋ちゃんは」

「しつこいッ!つか、『ちゃん』付けやめろってば!!」

どうでもいいことを、ギャアギャアと言い合っていた。

そこへ、

「なーに騒いでんの!?」

同じくクラスメイトで友人の、鴨下 陽菜(カモシタ ヒナ)がそんな二人のもとへ近づいてきた。

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