《MUMEI》

「……ボス。キミを僕にけしかけたのは、あの女だろう?」
「あの女とは?」
「ヴァレッタ。ヴァレッタ・ルーブル」
「何故、そう思うんですか?」
「別に。唯、君からあの女のきつい香水の香りがしたから」
ソレに基づいた予想だと淡々と話す本城へ
どうやらそれは事実だったのか、相手は何かを語ろうと口を開き掛けた
次の瞬間
何処からともなく銃声が鳴り響き、それと同時に倒れ伏す目の前の相手
無機質なアスファルトの上に、生温く黒ずんだ血液が段々と広がっていく
「……何をしているのかしら。私は言った筈よ。さっさと片を付けなさい、と」
硝煙を上げる銃口を向けたまま
普段となんら変わる事のない穏やかな笑い顔をヴァレッタは浮かべて見せる
「……基。迎えに来たわ」
突然にかしらを失い、うろたえ始める黒服達に構う事はせず
本城は現れたその相手を見据える
「……これは一体何の真似?」
現れた相手はヴァレッタ
ゆるり歩み寄ってくる彼女へ、本城は低く腰を構えながら
穏やかな笑みばかりを浮かべてみせる彼女へ問う事する
「何の真似?決まっているわ。Fairy tailを手に入れるためよ」
「何の為に?」
問い掛けに重なる更なる問い掛け
答えなどある筈のないそのやり取りに
やはり痺れを切らしたのは本城ではなく相手の方だった
「それは今此処で話すべき事じゃない。ここではなく、その話をするにふさわしい場所でなければ」
微かに、だが楽しげに笑うヴァレッタ
ソレと同時に本城達の周りを、また別の黒服達が取り囲む
「たかが人二人捕まえるだけで随分と頭数を揃えてきたね」
「勿論。あなたは一筋縄ではいけない。この男も、さっきそう言っていたでしょう」
脚元に転がったままの死体をさも楽しげにヒールの先で蹴りつけて
何一つ変わる気配のない現状
本城一人ならば、何とか打破出来たかもしれない
しかし、本城の後ろにて震えるばかりのシャオを庇いながらではそれも難しく
暫く考えた後、シャオの耳元へと唇を寄せる
「……今から僕が何とか隙を作る。君は逃げて」
「……逃、げる?」
「このまま捕まりたいワケ?多分ロクな事にならないと思うけど」
「で、でも基は?餅も、一緒に……」
「僕ならどうにでもなるから。いいね」
シャオが頷くのを確認するより先に本城が行動を起こした
徐に懐へと手を忍ばせると、いつの間に仕込んだのか携帯用の発煙筒を取って出す
突然に辺りを覆う白い煙に周りが騒然となったその隙を借り
本城はシャオの背を向かうべき方向へと押しやっていた
「……行って。早く」
「でも、基……」
「早くしろ!」
珍しく本城が感情も顕わに怒鳴る声を上げる
シャオはその声に脚を竦ませながら、それでも何とか頷くと踵を返していた
煙の白に隠され段々と見えなくなっていく本城の姿
「……会えなく、なるの?」
不意に胸の内に現れた不安にシャオは脚を思わず止める
だが随分と走ってきたらしく、本城の後姿は最早見えなかった
「も、とい……」
「見つけたぞ。あそこに居る!」
力なく座り込んでしまったシャオの背後で、複数の男の声が上がる
このままでは捕まってしまう、と何とか立ちあがる事をし
逃げるため走る事をまた始めていた
しかし、一体何所へ逃げればいいのか
全く見当がつかず闇雲に走っていたシャオの前に
「あら。シャオちゃんじゃない」
畑中が現れた
聞いた声にシャオは向いて直り、そしてみた顔に安堵すると畑中へと縋り付く
「ちょっ……。シャオちゃん!?」
「……けて」
「え?」
「基を助けて!!」
突然に喚く事を始める
その取り乱し様は酷く、畑中を動揺させるには十分だった
「シャオちゃん。落ち着いて。何があったのか、ゆっくり話してみて」
シャオの身体を抱いてやると、宥めてやる為畑中はその背を柔らかく叩く事をしてやる
暫くして漸く落ち着きを取り戻したのか、漸くシャオは状況を説明し始めた
ファミリーと出くわしてしまった事、そして本城が自分を逃がすため一人その場に残った事
「あの馬鹿が!」
事の次第を聞き終わると、畑中らしくない男らしい暴言
ソレが余りに怖かったのか、身を震わせるシャオへ
畑中は瞬間的に表情を穏やかにし、そしてすぐに携帯を取って出した

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