《MUMEI》 . ―――あんなに近くにいたのに。 鋭い痛みに似た何かが、胸の奥から止めどなく込み上げてくる。 思い返せば、後悔ばかりだ…。 「…修(シュウ)くん」 不意に名前を呼ばれて、俺はゆっくり振り返った。 そこに、友人の晶子が立っていた。 ブラックフォーマルのワンピースに身を包み、シンプルな化粧を施した今日の彼女は、普段とは別人みたいだ。 晶子は俺が手にしていた煙草を見るなり眉をひそめ、「今日くらい、我慢しなさいよ…」と文句を言った。 俺は彼女から目を逸らし、「ああ…」と頷きながらも、また煙草をくわえ、煙を吸い込んだ。 晶子は呆れたような顔をしたが、俺の心情を察したのか、それ以上煙草に関しては何も言わず、 代わりに、 「…そろそろ収骨だって」 弱々しく呟いたのだった。 俺はチラリと晶子を見た。疲れきった表情を浮かべる彼女の、その首元に、パールのネックレスが滑らかな光を放ち、輝いていた。 それが、なぜだか悲しかった。 俺は煙草の煙を吐き出して、「…わかった」と一言答えると、スタンド型の灰皿にその煙草を投げ捨てた。 それから、晶子と共に重々しい足取りで、火葬場の中へ入って行った。 . 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |