《MUMEI》

 池に林に芝生の広場。

 昼間は年寄りや親子連れなんかの憩いの場として賑やかなこの場所も、夜中ともなればその様相は一変し、アウトロー気取りの馬鹿野郎共の格好の溜まり場になってる事が多々ある。

 そういう下らない連中に何かと絡まれ易い俺としては、この時間帯は正直あまり近寄りたくない場所ではある。

 しかし、今日に限ってはそんな面倒臭い馬鹿共の姿は視界に映らず、代わりかどうかは知らないが、奇妙な馬鹿が目の前に。

 大小様々な石のタイルの敷き詰められたモザイク模様の遊歩道が、等間隔に並んだ煌々と光る街灯に照らされている。

 その街灯と街灯の狭間――届く光の乏しい薄い闇溜まりの中、背中を向けてしゃがみ込んだ半裸の男が一人。

 ガリッ。ゴリッ。と、固い何かを砕くような不気味な音が背中越しに聞こえてくる。

 ん〜〜…………、
 暖かくなり始めると土筆や蛙やドジョウと一緒に、頭の中も温かな奴も出て来るって言うし…………。


 …………見なかった事にしよう。


 たっぷり10秒は時間を割いて一番無難な結論を導き出すと、いまだに背中を丸めて一心不乱に何かに夢中になっている変質者に回れ右して、とっととその場を去る事にした。


 ボトッ――――。


「ん?」

 何かが転がり落ちる音に思わず振り返る。そして、後の事を一切考えない、浅はかで愚かしいその行為を、一秒後に激しく後悔する事になる。

 音の主――それは半裸男の足下に転がった女物の赤いハイヒールだった。それを脛の半ばから上の無い、血に塗れた細い足が履いている。よく出来たオモチャかとも思ったが、だとするとそんな物を好んで持ち歩くような奴は、相当頭のネジがぶっ飛んでいる。

「ぅわぁっ!!」

 いきなり突きつけられたスプラッターに、腹の底から声が溢れる。

 その声を聞き咎めたのか、ハイヒールに伸ばした手をピタリと止めて、今まで背中を丸めしゃがみこんでいた半裸男が、ゆらぁりと陽炎が揺らめくように立ち上がる。

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