《MUMEI》

.

 ジャーー…………
     ゴボゴボゴボゴポポッッ


 受話器を片手にイライラと頭を掻きむしっていると、前触れ無く聞こえてくるトイレを流す水の音。

 ――誰か居るっ!?
 直感が確信へと変わる。

 ドアの開閉の音に続く足音。重なるようにカチャカチャと金具が鳴っている。今気付いたが、目の前にドアが一枚。そのノブがぐるりと回る。


 ガチャッ


「何をしているんだ。君は」

 ベルトを閉め直しながら出て来た警官が、いぶかしげな表情を向けてくる。

「たすっ……助けてくれっ!!」

 一見、冴えない風体の警官だが、この際選り好みなんかしていられない。藁にもすがる思いで助けを求める。

「なっ!?き…君、まずは落ち着きなさい。いったいどうしたんだ?」

「お、お、おぉ……」

「おぉ?」

「鬼が出たっ!!」

「……………………はあ?」

 たっぷりと間を置き、小指でぐじぐじと耳の穴をかっぽじってから警官が聞き返す。

「もう一度言ってくれないか?何がどうしたって?」

「鬼が出た」

 うっわ、ムカつく。

 聞き間違えようがないようくっきりはっきり丁寧に言ってやったのに、ため息と共に、可哀想なモノでも見るような目で警官が俺を見る。

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