《MUMEI》

「な、何だよ!その目は!?」

「だって…………なぁ」

「本当なんだよ!信じてくれよ!そこの公園で犬と人が、こうグチャァって……」

「夢でも見たんじゃないのか?」

「なっ…………!?」

 呆れて半笑いした顔の警官の、思いやりの欠片も無い言葉に、思わず二の句が続かなくなる。

「大体、鬼なんてマンガみたいな生き物が本当に居る訳が無いだろう。ゲームのやり過ぎで、空想と現実の区別も付かなくなったのか?」

「そんなんじゃねぇっ!マジなんだって!マジで襲われそうになったんだよっ!!」

「大方、壁にでも写った自分の影か何か見間違えたんだろう」

「だから違うって!!」

「ならあれだ。彼女とかお袋さんが角生やして怒ってたとか?」

「例えばの話じゃねぇっての!第一、身長3メートル超すの大女なんて居ると思ってんのか!?」

「そんな人間居る訳無いだろう」

「だから鬼だって言ってんじゃねえか!!」

「お前、シンナーでもやってるのか?」

 その口調は、それまでの厄介者を相手にするようなおざなりなモノとは打って変わって、他人を問い詰めるような、追い詰めるようなキツく鋭いモノへと変わった。

 四十の頭を少し越えた位に見えるこの警官。制服が無ければ、そこら辺で飲んだくれてはクダを巻いている冴えないメタボ気味のただのオッサンにしか見えないのに、流石に10年だか20年だか警察官をやって来たからなのか。凄みを効かせたら、そこらの十把一絡げのチンピラよりも遥かに迫力がある。

「アルコールもシンナーの臭いもしてこないって事は、覚醒剤で幻覚を見た疑いがあるな。どこで誰から何を手に入れたのか詳しく聞かせて貰おうか?」

 俺から目を放す事なく、机の引き出しから帳面とボールペンを取り出す。

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