《MUMEI》

 んなバカなっ!助けを求めて来たって言うのに、何でやってもないクスリの疑いなんか掛けられなくちゃならないんだ!?

「あぁ〜〜〜、もぉ〜〜……。どうやったら信じてくれるんだよぉっ!」

「いくらでも信じようじゃないか。隠し事をせず正直に答えてくれたらな」

「俺はラリってなんかいないし、頭もおかしくなんかないっ!」

「あぁ〜、みんな最初はそう言うんだ。
 まず、名前から教えて貰おうか。次に年齢と住所…………」

 嗚呼っっ!!全くどう言や解るんだ!?

 どーでもいい事をグダグダグダグダのたまっている警官を睨み付ける。

 と、ちょっと待て……どうして俺はこんなにムキになっているんだ?

 俺の中に浮かび上がる疑問符。改めて目の前の警官を見やる。

 今、貧乏大学生のぼろアパートと変わらない広さの空間の中には小太りな中年の警官と、何の取り柄もない高校生のガキのたった二人だけ。

 警官は、取り立てて大柄な訳でもガチムチマッチョメンな訳でもない、何処にでも居そうな、ごく普通のメタボの疑いのあるオッサン。

 そんなオッサンが、果たしてあの鬼を相手にどうこうする事なんて出来るんだろうか?


 ……………………ムリだな。


 こんなオッサンと居ても、とてもじゃないが命の保証なんかありはしない。とっととこんな場所からはおさらばしよう。

 と、人生がどーの、若さがこーのと意味の無い講釈を垂れていた警官の手から、コトリとボールペンが転がり落ちる。

 顔を見ると驚愕に彩られた視線の先は俺では無く、その後ろ――開けっ放しにしてあった戸口に向かっている。

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