《MUMEI》

.

 まさかっ――――。


 全身から一気に汗が吹き出す。

 心臓の鼓動が速すぎて痛い。

 強張る筋肉。それを無理矢理ひっぺがし、ぎこちなく後ろを振り返る。

「――――っ!!」

 振り返るのとは対象的なスピードで、戸口とは反対側の壁にへばりつく。

 そこには予想通りの悪夢があった。

 全身凶器のような肥大した筋肉に赤褐色の皮膚を貼り付けたそれが、背中を丸め、不器用に狭い交番の中を覗き込んでいた。

「な……何だ、あれは?」

 俺と同じように壁にへばりつきながら中年警官。

「だから言っただろ。鬼が出たって」

「ば……馬鹿を言うんじゃない。おぉお、鬼なんか居る筈無いじゃないか」

「じゃあ目の前のあのデカブツは何なんだ?」

「……………………まぼろし?」


 バキバキバキメキィッ


「ひぃぃいいいい〜〜〜〜っっ!!」

 鬼が自分が潜れるように戸口を破壊しながら、上半身を無理矢理捩じ込んでくる。

 隣で腰のホルスターからガクガク震える手でニューナンブM60を抜きながら、

「と、とととととっ、止まれ!きぶっ、器物は、破損の現行犯で、たいっ、逮捕するぅぅ!」

 ガチガチと歯を鳴らしながら口上を垂れる。

「そんな事言ってる場合じゃ無いだろっ!」

「しょ、職務上言わなければならんのだ!でないと人権侵害で……」

「はぁっ!?相手は鬼だぞ!人権云々言ってる場合かっ?」

「しかしっ、ぎぃゃあああぁぁぁっっ!来たぁぁっっ!!」

「はっはやく速く早く撃てぇぇぇっっ!!」

「寄るなっ……来るなぁぁっっ!!」

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