《MUMEI》

 何かが近付いて来る――。

 直感的にそう感じ、顔を上げ周囲を見回せど、相変わらず夜の街に人の気配はない。けれども、何が近付いて来ているのかは十分過ぎる程予測出来る。

 疲労に喘ぐ筋肉に必死にムチ打ちヨロヨロと立ち上がると、近付いてくる地響きとは反対だと思う方へ走り始めた。

 たいした距離も走らないうちにそれに気付いたのか、地響きの近付くスピードが増す。

 背中に生える産毛が一気に総毛立つ。

 まだまだ離れていると思っていた地響きは、後ろのそう遠くない距離から響き始めていた。

 後ろを向いて確かめたいが、それに使う体力すら今の俺には勿体無い。考える事すら面倒臭くなってきた。


 バルンッ バルルルルル…………


 逃げる俺を追う地響きのさらに後ろ――。突然爆音が響き渡る。それは低音から高音へと音色を跳ね上げ、物凄いスピードで追い掛けて来た。

 そして後ろから迫る地響きと俺をあっという間に追い抜くと、女の悲鳴のようなブレーキ音を立ててテールを振ると、真正面に向かい合うように止まる。

 街灯の無機質な白い光の下に照らし出されたそれは、真っ黒なバイクとそれに跨がった、真っ黒なライダースーツにジャケットの、フルフェイスの男だった。

 男が背負った筒状の何かを肩に担ぎ直す。シルエットから察するにカールグスタフ系統のバズーカ砲だろうか。


 ッッドンッッ


 思考を遮るように馬鹿デカイ太鼓を叩いたような音と共に、男の肩口で真っ赤な火の花が咲き、後ろへ液体を撒き散らす。刹那――熱風を巻き付けた何かが俺のすぐ横を通り過ぎた。

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