《MUMEI》

 マジ何なんだよ……。

 ほんの数分前は生きるか死ぬかで神経をすり減らしていたのに、今はボケだのツッコミだのクソの役にも立たない話で神経を削り奪られている。

 こんな急激な温度差。熱帯魚なら死んでるぞ。


 るぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんんん…………


 ドコからか犬とは明らかに違う遠吠えが風に乗って聞こえてくる。

「しもた!こんな事しとる場合とちごた!
 ほら、死にたなかったらさっさと付いて来ぃ!」

 近頃の芸人論云々の間の抜けた雰囲気から一変、再び死の臭いが漂い始めると、関西弁の女は回れ右して走り出す。

 そして十歩程走った所でピタリと止まり、再び回れ右して俺の前へと戻ってきた。

「付いて来ぃ言うたやろ!死にたいんか、アンタは?」

「身体が痛くて動けないんだよ」

「はぁ?」

「バイクからおもいっきり投げ出されたんだぞ。動けなくても当然だろ。むしろあれで無傷なあんたの方がおかしくないか?」

「全然っ!」

「いや、そんな胸張られても困るんだが……」

「はぁ……もぅ、しゃーないなぁ」

 やれやれとため息を付くと、ジャケットの内ポケットから一枚の紙切れを取り出し、亀のように地面に這いつくばる俺の額にペタリ。

「散っ!」

「何だこれ?」

「痛散のまじない札や。死なん程度の痛みやったらその札が誤魔化してくれるはずや。それで動けるようになったやろ?」

「んなバカな。こんな紙切れで何が出来るって言うんだよ!」

「ごたくはええから、はよ立ち!」

 腕をつかみ強引に引っ張る。

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