《MUMEI》

 車道から歩道へ通り脇道へ逸れると、要り組んだ道の奥へ奥へと、昼間でも人気の無さそうな場所へ向かって走って行く。

 と、ふと俺の中で不安が首をもたげ始めた。

 このままこの女に付いていってホントに大丈夫なのか?――と。

 そもそもこの女はいったい何者なんだ?助けてくれたのは確かだが、実際、名前も素性も解らない。

 もしかしてこの女もホントの所、俺を追い掛けてくる鬼の仲間なんじゃないのか?

 このままノコノコと付いていって、待っているのは化け物どもの巣窟でしたじゃ笑い話にもならない。

 逃げようか――。

 逃げてどっかの部屋の隅っこの方で、朝が来るのをじっと待ってれば助かるんじゃないか。

 ――よし、逃げよう。

 決意を固め、進行方向を変えようとしたちょうどその時――、

「ちょい待ちぃ!」

 女が足を止める。

 もしかしてバレたのかっ!?

 固唾を飲んで見守る中、ごそごそとジャケットのポケットを探り500円玉を一枚取り出す。いったい何億枚発行されているのか解らないが、その内の一枚にしか見えないそれを指で弾いてキャッチすると、脇に立つ無機質な光を放つ自販機の前へ。


 ピッ ガシャガシャンッ プシュゥッッ
 ングッングッゴクッ…………


「ぷはぁぁぁっっ!んもぅ、サイッコーーーッッ!!」

「『サイッコーーッ』じゃねぇっっ!何やってんだよ!こんな時にっ!!」

「何て、いっぷくやん」

「いっぷくじゃないだろ!急いでたんだろっ!?」

「せやけど、最近こないビール売ってる自販機て滅多にないんやで!見掛けたらいっちょ飲んどこかて思うのが人間っちゅうもんとちゃうん?」

「ちゃうわぁぁぁーーーーっっ!!」

「うっわ、エセ関西弁でツッコミかましてきよったで」

「漫才なんかやってねぇ!」

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