《MUMEI》

「ウチらは今さっきの鬼に対抗する為に、あるトコに向かっとるワケやけど、その前に確認しときたい事がある。……て、何しとん?」

「…………何でもねぇよ。
 で?どこに向かってるって?」

 拭いきれない徒労感に押し潰され、殴りかかりたい気持ちを必死に飲み下し、俺は敢えて多くを語らず、服に付いた埃を払いながら立ち上がる。

「せやからそこに行く前に、聞いときたい事があるんよ」

「だから、何だよ」

「今なんぼ持っとる?」

 俺と女の間に冷たい空気が流れる。

「…………はぁ?」

「はぁ?とちゃうがな。金や金!ゼニはなんぼ持ってるんやて聞いとるんや!」

「こんな時に所持金検査って、話が見えないんだが?」

「血の巡りの悪いやっちゃなぁ。こんな時やからこそ、助けて欲しかったら金払え言うとるんやろが!」

「うっわ!命が惜しけれりゃ金寄越せって事かよ!?まるで追い剥ぎじゃねぇか!?」

「口の聞き方に気ぃつけやクソガキ」

「う……すんません……」

 女の口調にヤクザ顔負けの凄みが加わると、反射的に謝罪の言葉が漏れた。ツゥーッと、背中を形容しがたい冷たいモノが伝う。

「ともかくウチはこういう事を飯の種にしとるんや。金無い言うんやったら、仕方無いけどここでサイナラや」

「ホントに助かるのか?」

「少なくともアンタ一人で逃げ回るよりかはずっと安全なはずやで。想像してみ?アレに睨まれて抵抗できるか?」

「うっ……解ったよ…………」

 さっきまでこの女からも逃げ出そうと思っていたはずなのに、こんな事を言われると現金なモノで、助かるのならと泣く泣くジーパンのケツポケットから財布を取り出す。

 それを女が電光石火の早業で俺の手からかっさらった。

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