《MUMEI》

.

 るぉぉぉぉぉぉぉぉんんん…………


 さっきよりも近い所で遠吠えが聞こえるが、何かもうどうでもいい。

「危ないっ!!」

 その声に死んだ目をした顔を上げると、視界に真っ黒な棒切れのようなものが飛び込んでくる。

 それが女の足だと解った時には、胸元を思いきり蹴りつけられ、俺の身体は後ろへ大きく飛ばされていた。

「げほっ、ごほっ……あにすんだ……」


 ドゴォォォォォンンッッ!!


 文句を言おうと口を開こうとすると、ほんの1〜2秒前まで、どう死のうか考えていた場所に何かが直撃し、アスファルトの地面を盛大に粉砕する。

 モウモウと立ち上る砂煙の中でユラリと蠢く、見た事があるような、無いような巨大なシルエット。

 恐怖が頭の芯を殴り付け、一瞬で正気を奮い起たせる。

「雷ッ!縄ッ!縛ッッ!!」

 意味不明な女の言葉が辺りに響くと、砂煙の中がバチバチと音を立てて、ショートしたような電光が爆ぜた。


 ぐるるぅぅぉぉぉぉぉぉっっっ!!


 雄叫びがビリビリと空気を震わせる。

「早よ立ち!こっから離れるで」

 腕を掴み、無理矢理俺を立ち上がらせる女。

「お、おいっ、ちょっと待てよ!今のバチバチィってヤツは何なんだよ?」

 ぐいぐいと引っ張る女にたたらを踏みながら聞くと、女は真剣な表情で振り返る。

「今はそんな話しとる場合ちゃうのが解らんのかっ!聞きたい事あんねやったらあとでなんぼでも聞かせたるさかい、ウチの言う事大人し聞き!」

「わ、わかった」

 その迫力に気圧されたようになりながら首を縦に振る。俺だってこんな化け物じみた世界、一刻も早く抜け出したい。

 前を走る女の後を全速力でついて行った。

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