《MUMEI》

「ここや」

 それは襲撃を受けた場所から時間にすれば、およそ5〜6分離れた場所。

 目の前に建つのは、クレーンが設置され、上の階は鉄骨が剥き出しになったままの、まだ建設途中のビルだった。

 関係者以外の侵入を拒む為に張られた背の高いフェンスには、太いチェーンがぐるぐるに巻き付けられ、ゴツい錠前がそれをしっかりくわえ込んでいる。

「ちょお、離れときぃ」

 女がジャケットの内側に手を突っ込み、無造作に一挺の拳銃を抜き放つ。

「そ……それはっ!?」

 瞬間、俺の目と心はその艶消しされた鈍く黒い鉄の塊に奪われてしまった。


 ガゥンッ ガゥンッッ


 破壊力のみを追求し、それに耐え得るように設計された頑強なフォルム。

 ほとんど馬鹿としか言い様の無い火薬の炸裂音と事故かと思う程の火花を吹き上げる仕様。

 そして対象を確実に破砕するその威力は、まさしく世界最強のリボルバー――――。

「これでよし!」

「いやいやいやいやダメだろ、それは」

 チェーンを解き、何事もなかったかのように中へ入ろうとする女に、半ば無意識にツッコミを入れてしまう。

「気にしたら負けやで」

「勝ち負けの問題じゃねぇだろ。そんな事よりそれって、も、もしかしてスミス&ウェッソンのエ、M500じゃないのか?」

「ん?ん〜〜〜……よう解らん。買った時に『とにかく強いの』って、言っただけやし」

 事も無げに言う。確かにS&Wのコンセプトは『拳銃でグリズリーを倒す』なんてデタラメなシチュエーションを設定してるから解らなくもないが。

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