《MUMEI》 「な、なぁ。物は相談なんだが、ちょっとでいいから、それ……触らせてくれないか?」 零れ落ちそうな欲求をグッと押さえ込み、恐る恐る聞いてみる。 「ええよ」 即答で快諾される。 「へ?」 絶対断られると思っていただけに、すんなり要求が通ってしまい、思わず間の抜けた声を漏らしてしまった。 「別に構わんて、ホラ」 トリガーガードでクルリと回し銃身を握ると、上向いたグリップをこっちに差し出す。 生つばを飲み込み、差し出されたグリップを確かめるように握り締める。 うわっ!?おもっ――――!? 女の手が銃身から離れた瞬間、予想を上回る重さがずしりと来る。これが本物の重さってヤツなのか? 口径12.7ミリメートル。全長381ミリメートル。銃身長203.2ミリメートル。重量2055グラム。装弾数は5発と少ないながら世界最強と謳われるリボルバー――S&W−M500。 俺が自分で金を稼ぐようになったら、ハワイの射撃練習場で飽きるまで撃ち続けてみたいハンドガンNo.2を、日本なんかで触る事が出来るなんて!? あっ、撃ったばかりで熱くなった銃身を触ってたら、何か自分も撃ちたくなってきた。 そんな俺の欲情に気付いてなのか、たまたまか、黒いレザーグローブが俺からM500を取り上げる。 「ああぁっ!?」 「いい加減もうええやろ。あんまし時間ないんやで、はよ付いてき」 脇の下にホルスターを提げているのだろう。ジャケットの内側へM500を仕舞い込むと、さっさと口を開いたフェンスの奥の暗闇へと潜り込む。 手のひらに残った無骨で熱い鉄の感触を名残惜しみながらも、ここで馬鹿みたいに突っ立ってても仕方無いと頭を切り替え、女の後を追い掛ける。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |