《MUMEI》

「運が悪いなんて言葉でかたずけるつもりか?俺がアンタに会うまでに目の前で二人死んでるんだぞ!」

「何や?それがウチのせいやとでも?」

「違うのかっ!」

 麗が頭を掻きながら面倒臭そうにため息を漏らす。

「勘違いしてるようやからもう一回言うけど、ウチは金貰て仕事をこなす『退治屋』なんや。人助けして悦んどる正義の味方とはちゃうんやで」

「それでも人を助ける力はあるんだろ?」

「無い!」

 気持ちいい位キッパリいい放つ。

「こっちは命賭けて魑魅魍魎の類いと戦っとんねん。生きるか死ぬかの瀬戸際で、たまたま紛れ込んだカンケーない人間を漏れ無く助ける余裕なんかウチにはあらへん。そんな事しとったらこっちが真っ先に死んでまうわ!」

「そうかもしれねぇけど、アンタは何とも思わねぇのか?」

「じゃあ、逆に聞くけどアンタは地球の裏側で見ず知らずの赤の他人が死ぬたんびに心痛めとんのか?どーしようも無いろくでなしのゴミくずみたいなんが死んだ時涙流せるんか?」

「目の前で死なれりゃ、嫌な気持ちにもなるだろ!」

「ウチはアンタよりも、死ぃに近い場所におるんや。んな事いちいち気にしとったら気ぃ変になるっちゅーねん!」

「でも……」

「でももかかしもない!もうこの話はこれで終いや。

 やっこさんの方も、足止め振りほどいてようやっと追い付いてきたみたいやからな」

 麗の言葉に耳を澄ますと、地を這うような咆哮と重量級の足音が、こっちに近付いて来ているような気がする。

 麗とのやり取りで忘れかけていた非日常が再び日常で囲われた柵の中に染み出して来る。

 やっぱりまたあれが来るのか?あの現実離れした馬鹿げた災厄が。あの玄関をくぐって……。

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