《MUMEI》

「……ヤ。タクヤって!」

「ぅおっ!?」

 突然、麗の顔が視界を遮り、反射でビクッなる。

「どないしたん?ボーッとして?」

「な、何でもない」

 視線を逸らしてうそぶく。怖いなんて泣き言言っても、どうせ笑われるだけだし、俺にもプライドはあるから言いたくないし。

「?まあ、ええわ。そんでやな。取り敢えずアンタの立ち位置なんやけど、ここな」

 不思議そうな顔はしていたが、向こうはそれ以上興味がないらしく、ロビーの中央辺りに立つと、そこの床を二度程踏みつける。

「ちょっ、待てよ!立ち位置って、鬼が来るのにそこに突っ立ってろって事か!?」

「そや」

「無理だ!って言うか嫌だ!そんなトコ一発で丸分かりじゃねぇかっ!」

「心配あらへんて。ここ見てみ」

 つま先で指された床を見てみると、胸元に貼り付けてあるのと似たような、ミミズののたくったような文字と紋様が書かれた紙切れが、マジックかなんかで描かれた黒い円の中に貼り付けてある。

「何だよこれ?」

「こいつは『目眩ましの札』や。こん中におったら術者であるウチ以外からは見えんようになる」

「本当かぁ?」

「なんや?疑うんか?」

「だって……なぁ……」

「『信じる者は救われる』って、昔の偉いさんも言うとるやろ?アンタは自分が助かる事だけ考えとったらええねん。ウチの使う符術……札の力は自分の身体がよう知っとるやろ?」

 俺の胸を指でつつく。

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