《MUMEI》

.

 ズシャッ


 高いと思っていた天井も鬼の背丈にかかると、家のそれと変わらないように見える。


 ズシャッ


 汗だくのTシャツを長期間放置して乾かしたような臭いが薄く漂って来る。


 ズシャッ


 影に覆われて表情は解らないが、獣のように光る金色の双眸が俺を見据えているような気がする。


 ズシャッ


 真っ直ぐに俺の方へと近付いて向かって来る。


 ズシャッ


 …………ひょっとして見えてるんじゃないか?


 ズシャッ


 一歩として迷う事なく俺に向かって来る。
 何だよ!この中にいれば安全とか言っておいて、全然安全じゃねぇじゃねぇか!!


 ズシャッ


 一歩一歩確実に向かって来る鬼のせいでおちおちパニクッてもいられない。

 鬼はその巨体に比べると以外と短足だったが、それでも一歩で軽く1メートルは近付いて来る。仮に一歩1メートルで計算すると、あと4歩か5歩も進めば俺を握り潰す事も、頭から喰らう事も簡単に出来るだろう。

 冗談じゃないっ!そうなる前にとっとと逃げ出してやる!

 俺は円の外へ飛び出そうと鬼に背中を向けた。

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