《MUMEI》

 光から抜け出し改めて後ろを振り返ると、五色の光が円を描き床と天井を繋ぐ柱となっていた。その中で鬼が引き千切るそばから次々と絡み付く光から逃れようともがき苦しむ。

「さぁて、仕上げに取り掛かるか!」

 麗が手にした数枚の紙切れを投げると、まるで生きているかのように空を切り裂き、誘蛾灯に誘われる虫のように、五色の光に吸い込まれていく。

「縮っ!」

 麗の声に呼応するように柱の内側の空間が震える。

「縮っ!」

 震える空間で鬼が何か見えない力に抗うかのように耐える。鬼の身体が縮んで見えるのは気のせいか。

「縮っ!」

 いや、気のせいじゃない。麗の声が周囲の空気を震わせる度に、柱の中の見えない力は鬼の身体を徐々に押し潰していく。

「縮っ! 縮っ! 縮っ! 圧っっ!!」

 そして最後には1メートル足らずのボール玉になってしまった。


 る……ぐぁぁぁああぁぁぁ…………


 自前の筋肉に潰されて辛うじて覗く歪んだ顔が苦悶の叫びを上げる。

「苦しいか?苦しいやろなぁ、苦しないワケがない。
 でもこれで終いやで。何もかんもな」

 ゾクッとするくらい冷たい笑みを浮かべ、鬼に語り掛ける麗がジャケットの内ポケットから一枚の紙切れと一緒に、ゴルフボール位のサイズの透き通ったガラス玉みたいな物を取り出す。

「……吸っ」

 紙切れが煙のような姿に変わり、ガラス玉に吸い込まれると、無色透明だったそれが靄がかったグレーに濁る。

「ほな、サイナラ」

 無感動に最後の言葉を紡ぎ出すと、麗は手に持ったガラス玉を光の柱に向かって放り投げる。それは弧を描きながら光の柱を通り抜け、中の肉玉に姿を変えられた鬼の身体にコツンと当たった。

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