《MUMEI》

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―――近代的な建物の、その火葬場の中には、独特な煙の匂いと異様な熱気が立ち込めている。



空気は重苦しく淀み、ハッキリ言って気分の良いものではない。思わず顔をしかめてしまう。

冷たい静けさに包まれた長く続く廊下を、晶子と共にゆっくり歩く。カツン…カツン…と、俺達の無機質な靴音だけが、辺りに響いていた。

まっすぐ廊下を進むと、間もなく炉前ホールにたどり着いた。

長く伸びる手すりの向こう側には、いくつもの火葬炉が設置されていて、その前に、ぽつん、ぽつんと、いくつかの遺影が置かれている。

それを眺めながら、俺達は歩を進める。



やがて、一番奥の火葬炉の前に、頼りなく独りぼっちで佇んでいる人が見えた。

髪の毛をきれいに纏め、真っ黒な喪服を着た、中年の女性。

『自分が、今回の葬儀の喪主を務めるのだ』と、告別式が始まる前に、彼女に挨拶されたことを思い出す。

「不思議なのよ…まだ実感がわかないの。悪い夢を見ているんじゃないかって…何だか信じられなくて」

そう語った彼女は、とても疲れた顔をしていて、それが今でも瞼の裏に焼き付いて離れない。


女性は、唇をきつく結び、思い詰めた表情を浮かべていた。きっと、たくさん泣いたのだろう。その瞳は充血し、真っ赤に染まっていた。

手には白いハンカチが握られ、睨みつけるような鋭い眼差しは、彼女の目の前にある遺影に向けられている。

俺は足を止め、その遺影に視線を向けた。

黒いリボンに、真っ白な菊の花をあしらった、質素な額縁。

その中央に写し出されているのは、美しい顔立ちの女の笑顔。



―――それは、紛れもない、

あの、風子のもの。



そして、

風子の遺影の前に立っているその女性こそ、

風子の唯一の肉親である、母親だった。



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