《MUMEI》

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晶子が選んだのは、友達の結婚式に招待されたとき、撮られた一枚だそうだ。


きれいに化粧を施し、カメラに向かって、ふんわりと柔らかく微笑みかける風子。



まさか数年後、この風子の写真が遺影に使われるなんて、そのとき、誰が想像しただろう。



やがて、黒い制服を着た火葬場の職員が二人、風子の母親の元へやって来た。

―――それでは、ご確認を手前共と一緒に…。

職員の一人が彼女に向かって、密やかに語りかける声が微かに響く。もう一人は、風子の遺影を乗せていたキャスター付きの台を押し、奥の部屋へ消えていった。カラカラ…と乾いた車輪の音が、だんだんと小さくなる。


風子の母親の傍に控えていた職員が、火葬炉の脇に設置されたボタンを押すと、ホールに重々しい機械の起動音の唸り声が、微かな震動と共に、響き渡った。

炉を堅く塞いでいる、重々しい鉄製の扉が、ゆっくり、とてもゆっくりと、開いていく―――。



「…修くん!」



咎めるように俺を呼ぶ、晶子の小さな声。

晶子は、ピタリと立ち止まり、火葬炉をまっすぐ見つめている俺の、その振る舞いが、喪主に対して失礼に当たると思ったようだ。

俺が振り向いたのを確認してから、晶子は続けた。

「呼ばれるまで、控え室に居ようよ。みんな、そうしてる」

「早く、こっち…」と、踵を返すと、ホールから足早に立ち去った。
晶子の後ろ姿を見つめ、俺はため息をつき、彼女のあとを追いかけた。



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