《MUMEI》

 咆哮と暴風が収まった頃、なんとか目が見えるようになった俺が辺りを見回すと、光の柱の無くなった暗いロビーは嵐の後のように妙にこざっぱりと汚れていて、鬼の姿は影も形も失くなっていた。

「な…あ……。鬼は……どうなってるんだ!?」

 ただ訳が解らず膝をついたまま、ただ呆けている俺の目の前を、麗が足取り軽く鬼の居た場所へと歩いていくと、

「んっふっふ〜〜〜♪」

 鼻歌まじりにそこに落ちていた見慣れない野球のボール位の青い玉を拾い上げて、ホクホク笑顔で光にかざすような仕草をして、中を覗き込んでいた。

 そんな麗の姿を見ていると無意識下まで沈んでいた怒りがふつふつと沸き上がる。

 ――そうだっ!思い出した!!

「テメェッ!俺の事やっぱり囮にしやがったなっっ!!」

 飛ぶように立ち上がり、そのままの勢いで食って掛かると、

「いやぁ〜、アンタのお陰でだいぶラク出来たわ。おおきにな」

 なんて、いけしゃあしゃあとのたまいやがった。

「ざっけんな!こっちはテメェの言葉を信じて立ってたんだぞ!?それを犬の糞踏んだ靴で踏みにじるような真似……」

「けどアンタは今こうしてピンピンしてられるんやからそれでええやん」

「いいわけねぇだろ!」

「じゃあ、鬼の腹ん中に居る方がマシやったか?」

「何でそうなるんだよっ!」

「あ〜も〜〜、キャンキャンとうっさいなぁ〜。少しは落ち着きぃや。何がそんなに気に入らんっちゅうの?」

「騙して囮にした事と、逃げようとした時動けなくした事だよっ!完全に狙ってただろ!あれっっ!!」

「しゃあないやん。ああするんが一番安全やったんやから」

「どこが安全だよ!本気で死ぬかと思ったんだからな!」

「せやけど、ちゃんと生きとるやん?」

「死んでたかもしれねぇだろ!」

「大丈夫やって。ウチかて無駄な犠牲は出さへんよう、ちゃんと計算してんねやから」

「本当かよ」

「当たり前やん!」

 もう、この女の言動はもう一切信用出来ない。信じたが最後、すくわれるのは足元位じゃ絶対済むはずがない。

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