《MUMEI》

ユウゴと織田は文字通りケンイチをたたき起こし、サウナを出た。
まだ薄暗い街に人の姿はあまりない。
「なあ、この服微妙じゃね?」
少し後ろでケンイチがぼやいている。
ユウゴはそんな彼を振り返り、「しょうがないだろ」とため息をついた。
「服、血だらけだったんだから。あんなのずっと着てられないだろ」
「けど、誰も気づいてなかったじゃん」
「汚れすぎて、逆にそんな柄なのかと思われただけだろ。臭いもひどかったし」
「っても、これはなぁ」
ケンイチは言って自分が着ている服に目をやった。
ユウゴも彼の姿をあらためて眺めてみる。
下は普通のジーパンにスニーカーだが、上は紺色のジャージを着ている。
それでもおかしく見えないのは、彼が精一杯着こなそうと努力しているからだろう。
ユウゴは思わず笑ってしまった。
それに気づいたケンイチは「なんでおまえは普通なんだよ?」と睨んできた。
「しらねえよ。服盗んできたのは織田なんだから、そっちに聞けよ」
ユウゴは肩をすくめた。
ユウゴもケンイチ同様に服を替えたのだが、普通のジャケットにTシャツだったのだ。
起床したときに織田がくれたものだが、彼がどこからこれを持ってきたのかは知らなかった。
ケンイチは抗議の目を織田に向けたが、織田は知らん顔で歩き続けていた。

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