《MUMEI》

「なぁ、さっきの玉って何で青い色をしてたんだ?」

 消え失せたと思っていた不安がまた足下までにじり寄って来る。

「封じ込めたのが青鬼やったからな。妖玉の色ってのは大抵の場合、封じた妖怪の体色に左右されることが多いんや。けどこれが霊玉に浄化加工されると…………」

 うねうねと足に絡み付いたそれが、ぬらぬらと腰の辺りまで登って来た。膝が笑い、気を抜くと腰が砕けそうだ。遠くの方で警鐘が競輪のジャンのようにけたたましく鳴り始める。

「鬼ってのは身体の色が変わったりするのか?例えば、赤から青にとか……」

 他人のイヤホンから漏れる雑音のように聞こえていた警鐘が、頭の中でどんどん大きくなってくる。不安の魔の手が、直接心臓を締め付けてきた。

「変化したりするヤツもおるから身体の色変えるくらいワケないやろな」

 その言葉に胸の支えが落ちる。何だ考え過ぎか。

「けど今回の鬼にそんな能力はあらへんやろな。あっても肌の色だけ変えるだけなんて何の意味も無いし」


 レッドゾーン突入――!


 警報ブザーと警告灯の赤い光が脳内を乱れ狂い
、心臓が鷲掴みにされたように、きゅぅぅっとなる。

「なあ…………」

 ガチガチと歯が鳴るのを押さえ切れず口を開く。

「何や?」

 身体の芯から冷たくなっているのにまとわりつくような汗が止まらない。

「今さらこんな事言うのも何なんだが……」

 口の中がカピッカピに渇く。唇がぱっくり割れそうで怖い。

「せやから何や?」

 麗が焦れたように俺の次の言葉を待つ。

 息を吸い――――吐く。

「俺が初めに見た鬼って、青じゃなくて赤だったんだけど…………」


 ひきっ――――。


 目の前の顔が面白い位はっきり凍り付いた。その上にさっと影が落ちる。

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