《MUMEI》

「危な――――っ!!」


 ガッッシャャァァァァァアアアンンンッッ!!!!


 耳に響くのはガラスの割れる甲高い音。目に映るのは俺を抱きかかえる麗のつむじ。

 いったい何が起きたんだ――!?

 みぞおち辺りに当たる柔らかな弾力ある感触だけが妙に生々しくはっきりと感じられる。と、背中から硬い床に叩き付けられた。

「っってぇ〜〜……」

 たいして痛みを感じていないのに反射で口走る。起き上がろうとした頃には、麗は俺の上からさっさと飛び退き、何かに対峙するように背を向け立っていた。

 麗の視線の向かう先に目を向ける。通りに面し、保護シートに覆われていたガラスは、シートごと見るも無惨な大穴を開けて、破片と切れ端をそこら中にばら蒔いている。

 その中心にうずくまる巨大な影――。


 ふしゅうぅぅぅぅるるるる…………


 その姿に息を飲む。

 ステロイドでも使っているかのような、はち切れんばかりの極太筋肉。赤褐色のがさがさの肌。身の丈3メートルを軽く超える何もかもが規格外の巨体。

 そしてざんばらの白髪を掻き分けて伸びる、額からまっすぐ伸びる二本の捻れた角。

 間違いない。こいつこそ俺が生まれて初めて出会した恐怖の権化だ。

「うわぁぁぁああああっっ!!」

 食い散らかした女の姿が。目の前で飛び散った犬の姿が。生きながら身体を潰される警官の姿が。麗に出会うまでの恐怖がまざまざと甦る。

「うっさい!落ち着きぃっ!!」

 鬼を睨み付けたまま動かない麗に叱咤されハッと我に返る。

 あっぶねぇ……。今完全にパニクッてた。

 ゆっくりとした動作で立ち上がる鬼は、俺達二人……というよりも麗一人に向かって、発狂しそうな位強烈な殺気を放ってくる。

 一見、華奢に見える背中が、鬼が放つ禍々しい殺気を真正面から受け止めてなお真っ直ぐと立ち、その後ろで余波を受ける俺は真っ直ぐに立つどころか手足で身体を支え、押し潰されそうな重圧に、息をするのもやっとという有り様だった。

 そんなナリになりながらも、事の行く末を見届ける為に必死に目だけは見開く。

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