《MUMEI》

「あんっのクソハゲ!ウチらを閉じ込めるつもりか!?」

「どうすんだ?窓から出るか?」

「いや、これ以上は床が限界や。抜け落ちる前に上の階へ避難するで。……と、その前に……幻!」

 いったい何枚持ってるのか、ポケットから取り出した札を床に投げ付けると、麗によく似た胸のでかい色気たっぷりの女が姿を現した。

「うおっ!?いきなり何だ??」

「ウチの幻影や。鬼がこれに気付いたら少しは足止めになってくれるやろ」

「全然似てねぇけど平気なのか?」

「何言うてんねん!どこからどー見てもウチそのものやん」

「良いけどさ。それで自分が幸せなら」

「うっさいアホ!」

 ピシピシとひび割れる床から逃れるように奥へ向かう麗の後に付いて走る。

 奥にはロビーより一段低い天井の廊下が口を開けていて、その先のL字に曲がった角に上下に続く階段を見つける。麗は迷う事なく階段を上った。

 二階……三階……四階……と、とにかく上へ進んで行くと、六階で階段が途切れる。

「さてと……どないしよかな……」

「何も考えずに上って来たのかよ」

「失敬な。何も思い浮かばんだだけや」

「どう違うんだよ。それって」

「知らん!」

「うっわ。開き直りやがった」

「そんな事よりアンタはこれ持っとき」

 麗が懐からS&W−M500を抜き出す。

「気休め程度にしかならんかも知れへんけど、まあ、無いよりはマシやろ」

「これでどうしろって言うんだ?」

 受け取りながら尋ねる。今は緊張感の方が勝っていて、二度目の邂逅に感動する余裕が無い。

「アンタの心配しながら戦える程楽な相手ちゃうから、最低限自分の身ぃは自分で守れて言う事や」

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