《MUMEI》

 静寂が訪れた。聞こえるのは俺と麗の息づかい、そして下のフロアから微かに届くズズッ……ズズッ……という重い物を引き摺るような音。

「……タクヤ」

 麗の声がポツリと聞こえる。

「何だ?」

「ちょっと大技使うさかい気ぃつけてや」

「ちょっ、待てよ!気を付けろって何をどうすりゃ……」

 そんな声には耳すら貸さず、ポケットから新しい札を数枚取り出す。今度のは今までのとは違い札の色が紅い。その内の一枚を床に押し当てる。

 そして意識を集中するかのように一瞬目を閉じ、烈迫の気合いと共にカッと見開いた。

「粉砕っ!」


 ピシィィッッ――――


 札を中心に蜘蛛の巣のように亀裂が走る。それは俺が立つ場所も漏れ無く侵食し、

「うぉわぁあっ!!」

 心の準備が欠片も出来てない内に音を立てて崩れ去った。

 轟音が鼓膜を叩き、景色が下から上へ墜ちていく。

「いっ…ててててて……」

 したたかに打ち付けた腰をさすりながら顔を上げる。天井が高い。あの女、1フロア分丸々床をぶち抜きやがった。

 辺り一面瓦礫だらけ。上のフロアとたいした違いなども無く、柱ばかりで内壁外壁ほとんど無い。

 そして鬼の姿も見当たらなかった。

 フロアに立つのは俺を除けば麗だけ。視線鋭く鬼の姿を探している。

 何度目かの静寂が降りて来る。こんな時は、息をするのでさえ憚られる気分になる。


 ――――カラッ


 背後で瓦礫が崩れる音がした。

「そこかぁっっ!!雷槍っっ!」

 俺が後ろを振り返るよりも速く、麗が俺の方を向き赤い紙切れを投げ付ける。

「っぅおっ!!」

 今までよりも数段鋭い雷が、轟音掻き鳴らし一直線に、大きく俺を反れて背後の柱の一本に直撃すると、当たった場所のコンクリートが弾けて、中の鉄骨が剥き出しになる。

「くそっ!無駄弾打ってもうた……」

 苦々しく舌打ちする麗に向き直る。その後ろ。

 ぬぅっと――。

 暗闇に赤い丸太のような腕が浮かび上がった。

「麗っ!」

「ッッ!!」

 反射的に頭を庇ってその場を跳ぶが一瞬遅い。

 腕が横に薙ぎ、麗を瓦礫の山に吹き飛ばした。

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