《MUMEI》

 拳の中で爆竹を破裂させたように両手が痺れて、手のひらを閉じているのか開いているのかさえ解らない。それでも俺は身体を捻って、今一度M500を手にしようと足掻く。

 幸いな事にすぐ後ろに
落ちていたそれを拾うと、今度こそ一発ぶちかまそうと振り返るが、不幸な事に鬼の巨大で肉厚な手のひらが、視界いっぱいに広がっていた。

 逃げようとする暇すらなく、手のひらが俺の頭を握り込むと、そのままぐいと持ち上げる。

 引き剥がそうともがくがビクともしない。頭蓋がミシミシと音を立てているのが脳みそに直接響く。全体重を支える首が悲鳴を上げる。

 痛みはほとんど感じないが吐き気が止まらない。早くなんとかしないと、間違いなく死んでしまう。

 今度はM500を飛ばさないようにしっかりと握り直すと、俺の頭を握り込む腕の根元へ向けて、当てずっぽうに引き金を引いた。


 ガゥンッッ  ガゥンッッ


 ぐぉあぁあぁぁぁあああああっっっ!!!!


 苦痛に蝕まれた絶叫が冬の夜更けの冷たい空気を震わせ、俺の身体はぼろ切れのように放り出される。

 刹那の浮遊感の後、瓦礫の山に落下した俺が半身を起こして見たものは、背を丸めて両手で右眼を押さえる鬼の姿だった。

 指の隙間から苦痛を孕んだ低い呻き声と、赤黒いドロリとした体液とおぼしき物が零れている。

「やった…………」

 そう思ったのも束の間。

 鬼が指を傷口に突き入れる。激痛と溢れ出る血に耐えながら指先をぐいぐいと捩じ込むと、身体を仰け反らせ、潰れた鉛玉と破裂した目玉を引きちぎり、乱暴に地面に投げ捨てた。

 残った金色の左眼が憎悪の炎を燃え上がらせ、殺意を込めた目差しで俺を睨み付ける。

「あ……かはっ…………!?」

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