《MUMEI》

 何度も殴る蹴るの攻防を繰り返し、さらに何度目かに繰り出した俺の身体の右の手刀が、鬼の左脇腹に突き刺さる。ちょうど、筋肉と筋肉の境目に突き入れたようだ。


 ぐぁぁぁっっっ!!


 ぃよっしっ!やった――!!

 贔屓の選手が活躍したのを喜ぶファンのように歓声を送った。

 身体は次撃を打ち込むために手刀を引き抜こうとする。しかし、筋肉ががっちりと手刀をくわえ込んで押しても引いてもびくともしない。

 視界の上で、振り上げた手を組み、口の端を持ち上げる鬼の顔が見えた。

 ヤバイッッ――!!


 グシャッッッ!!!!


 視界が激しく縦に揺れて、破滅的な音と衝撃が脳天から頸、背骨へと駆け抜ける。視界がゆうに頭一つ分沈み込んだ。

 あ……これは死んだな――。

 他人事のような感想が頭を過る。

 目、鼻、口。身体中の穴という穴から血が吹きこぼれ、鬼の筋肉に埋まった右手を支えに、辛うじて立っているという有り様だった。

 遥か頭上で、だめ押しとばかりにもう一度、組み合わせた両の拳を降り上げる。

「う…………」

 細胞のひとつひとつがふつふつと沸騰する。全身から蒸気が立ち昇る。
さっきよりも高温を放ってるんじゃないだろうか。

 完全に意識が身体と遮断され、何も感じる事が出来ない。


「うぉぉぉおおぉおぉおぉおぉぉっっ!!!!」


 血の泡を吐きながら咆哮上げる。そして右手をくわえ込んだまま離さない傷口に、指先を揃えた左手も突き入れた。


 ぐぉあああっっ!!


 苦悶の表情を浮かべながら組んだ鉄槌を降り下ろす。

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