《MUMEI》 . 晶子の話によれば、藤川先輩とその女の子は、まるで恋人同士のように仲睦まじく、街中を闊歩していたらしい。 「いくらなんでも友達と腕を組んだり、腰を引き寄せたりしないでしょ?」 晶子の勢いに圧倒されて、俺は頷き返すほかなかった。 「あの子、フツーに振る舞ってるけど、もしかしたら、もう気づいてるのかも…結構、勘、鋭いし」 晶子は空を仰ぎ見ながら、深いため息をつく。俺も彼女にならい、空を見上げた。 少し高くなった、真っ青な空がどこまでも広がっていた。だんだんと季節も移り変わり、秋に近づいていた。 ―――夏休みに入る前、 藤川先輩と付き合うことになったと、 報告してきた風子の、あの笑顔を思い浮かべた。 あんなにも嬉しそうだった、風子。 もし、晶子の推測が正しければ、風子は、たったひとりで、どれだけ悲しい想いを抱えているのだろう。 「…ちょっと、しんどいな」 俺が呟くと、晶子も、「…うん」と小さく頷いた。 その『疑惑』が『確信』に変わったのは、 それから間もなくのことだった。 ちょうど、学校は文化祭を開催していた。 その、一般開放の日のこと。 準備に勤しむ風子と晶子の姿を見つけた俺は、いつものように彼女達に近寄って行った。 「なに、その顔!」 晶子の顔を見た俺はビックリしてつい大声を上げた。いつになく派手なメイクを施していたからだ。 俺の素頓狂な声に、晶子は「何よ?」と、感じ悪く眉をひそめた。 「今日、彼氏が来てくれるの!気合い入れて何が悪い!!」 と、逆に怒られてしまった。 俺が肩を竦めて、「仮装イベントかと思った」とふざけると、晶子は「ふざけんな!」と怒鳴った。 . 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |