《MUMEI》 13.13. 真理は怒っていた。 徹にも阿歩屋旅館にも怒っていた。 旅行の楽しみの料理まで酷かったのだ。 とても老舗旅館とは思えない。 におい、味、見た目さえ悪い。レトルト食品や冷凍食品の方が遥かに美味しい。 しかし、中には凄く美味しい料理もあったから、それが余計に頭に来る。 真理は徹に「文句を言って来て!」と言ったのに徹は「ここは料理がメインじゃない、温泉がメインだから」と言い返してきた事に更に頭に来ていた。 だが、そのメインの温泉さえ、この部屋からは遠い。 部屋には、お風呂がないため1番近い露天風呂まで歩くと10分は掛かる。 行きは良いが帰りは、せっかく温まった身体が部屋に着く頃には冷えてしまう。 真理は帰り支度を始めた。 それを見て徹は慌てた。 徹「真理!何やってんだ!?」 真理「見れば分かるでしょ。帰るのよ。」 丈 は 香 と話している間、不思議と安心し、そんな 香 に惹かれはじめていた。 丈 は会って間もない 香 に今までの事を全て話した。 香 も何故か 丈 と一緒に居て安心する事が出来た。 ランチを御馳走になった後に、そのままデートに 香 から誘った。 少々、強引だったが、もっと一緒に居たかったのだ。 香は素朴で純粋で、おとなしく控えめなのに 丈 には積極的だった。 丈 のアドレスや携帯電話の番号を聞いて夕方に別れた。 香 は幼い頃に母親を病気で亡くしてから父親の伊井 嘉源(イイ カゲン)と二人で生きて来た。 家に帰り夕飯の支度をしながら 丈 の事を嘉源に話した。 嘉源は多少、驚きながら も香 の話を真剣に聞いていた。 おとなしい 香 が、こんなに生き生きと楽しそうに話している。そんな姿を見て嬉しかった。 香 が 丈 の事を好きになっているのは明らかだった。 しかし 丈 は結婚している。 それを聞いて親として複雑な気持ちだったが 丈 の妻が浮気をしている事を聞いて 丈 は妻と、いずれ離婚するだろう、その後には 香 と結ばれるようにしてやろうと心に誓っていた。 今まで、ろくに恋愛もせず家事をこなし会社でも真面目に仕事をして来た。 化粧もオシャレも趣味もしないで頑張って来たのだ。 嘉源は仕事中の事故で右手と右足を悪くしていた。 そんな嘉源の面倒も、よく看てくれた。 香 には母親を亡くしてから本当に苦労を掛けた。 色んな事も我慢させた、せめて、この恋だけは実らせてやりたいと思った。 徹「なに!?帰るだと、せっかく来た旅行なんだぞ!」 真理「こんな旅館に泊まりたくないの!」 徹と真理は激しく口論していた。 暫く言い争ったあと二人は黙りこんだ。 その沈黙を先に破ったのは徹だった。 徹「分かった。この旅館を出よう。だけど帰るな。違う旅館かホテルに行こう。」 徹は穏やかに言った。 真理「本当?」 真理は戸惑いもあったが嬉しそうに微笑んで徹に抱きついた。 徹は真理を抱きしめながら激しいキスをした。 二人は帰り支度をして阿歩屋旅館を出た。 それに慌てたのが望代だった。 少しやり過ぎたと反省したが、もう遅い。 望代は二人の後を追ったが、姿は見当たらなかった。 馬鹿温泉街の少し外れに近代的なホテルが建っていた。 徹と真理は、その近代的なホテル「、募露屋(ボロヤ)」にチェックインした。 徹は最上階の最高級のスイートルームを取った。 徹と真理は部屋に入ると激しいキスをした。 二人に言葉は要らなかった。 徹「真理、結婚しよう。」 真理「えっ!?」 徹「妻とは別れる。だから結婚しよう。君も離婚して欲しい。マンションを借りておくから、そこで暫く暮らしてくれ。君が離婚して半年後に俺も離婚するから。そしたら結婚しよう。」 真理「うん…。」 真理は恥ずかしそうに頷いて、それから二人はベッドに倒れ込んだ。 つづく 前へ |次へ |
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