《MUMEI》
その後
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藤川先輩と別れたあと、風子は以前のような明るさを保って、元気に過ごしていた。

俺と晶子は、風子の失恋による精神的なダメージを心配していたが、彼女は今までと何等変わらない様子で毎日を過ごしていたので、俺達も、それについてとやかく口に出すことは避けた。

「あんまり傷ついてないのかなぁ」

少し離れたところから、風子の明るい笑顔を眺め、ぼんやりぼやいた晶子に俺も頷く。

「実際、付き合った期間も1カ月くらいだもんな」

たった1カ月という短い時間では、まだお互いのことを深く知り得ることなど出来ないだろう。

俺の呟きに、今度は晶子が「そうだよね…」と、やはりぼんやり答えた。

俺は視線を流して、風子の姿を見つめた。彼女は他のクラスメイトと楽しそうに会話をしていた。

くるくると目まぐるしく表情が変わる様は、いつものような眩しさがあり、とても魅力的だった。


結局、俺と晶子の間で風子の失恋はそれほど心配するようなことではなかったのだと、結論付けた。

本当に、風子は以前と変わらなかった。

フツーに冗談も言ったり、いつものように3人で集まってどうでもいい話に夢中になったり。



―――だから、見落とした。



彼女の完璧すぎる『演技』に、俺達はすっかり勘違いしていたのだ。



それに気づいたのは、

もう少し、後のこと…。




それから風子は、高校を卒業するまで誰とも付き合わなかった。

彼女程の器量なら、引く手あまたの筈なのに、なぜ?と尋ねたら、

「今は恋愛に興味がないの」


と、満面の笑顔でバッサリ返された。

そして、俺と晶子は、「そんなもんか」と、風子の言葉を鵜呑みにした。


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