《MUMEI》
ホワイトデーのキス
「くぬぬぬぬっ…!」

こっこの上り坂は辛いっ!

自転車を立ちこぎして、ようやっと山を越えられる。

1本向こうの道路では、バスが通る音が聞こえた。

…今日もいるんだろうな、彼は。

わたしは下り坂になると、足を広げた。

そのまま重力に任せて、坂を下る。

どうせこの細道は誰も通らない。

みんな、バスに乗るから。

わずかにあたたかくなった風を浴びながら、わたしは一ヶ月前のことを思い出す。

…今思い出しても、恥ずかしい!

何であんなことができたんだろう?

後でこうなることは、分かっていたのに!

わたしには好きな人がいた。

わたしがいつも乗るバスには、たくさんの学生達が乗る。

と言うのも、学校が駅から山の中に向かってあるからだ。

…普通は逆なのに。

それでも学校はそこにしかないから、みんなバスに乗って登校する。

わたしの好きな人も、同じバスに乗っていた。

わたしの家は駅近くにあるので、いつも座って乗れた。

一人用のイスに座り、20分で学校に着く。

彼は途中から乗って、わたしより先に降りる。

乗車時間、10分足らずだろうな。

…とある春の日、わたしのすぐ近くに彼が立った。

彼のカバンがわたしの膝に当たり、眠りから覚めてしまったわたしは思わず顔を上げた。

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