《MUMEI》 「ちょっちょっと待ってください!」 彼を追って、慌ててバスを降りた。 「えっ?」 「あの、コレ、受け取ってください!」 チョコを差し出すと、彼はキョトンとした。 …そりゃそうだ。 顔ぐらいは知っている女の子に、いきなりチョコを差し出されたら、誰だってそうなる。 「えっと…」 「ちょっチョコです! キライじゃなければ…」 「あっああ、うん。それじゃ、貰うね」 そう言って彼は受け取ってくれた。 わたしは一気に頭の中が真っ白になった。 チョコを渡すまでのことは考えていたけれど、その後のことは何も考えていなかったから。 「そっそれじゃあ失礼します!」 そう言って、思わず彼の前から逃げ出してしまった! 「えっ、ちょっと!」 「ゴメンなさーい!」 何に謝っているのか、自分でもよく分かっていなかった。 そしてわたしは走ったまま、駅まで来た。 …そして急に冷静になった。 チョコを渡したまでは良かったものの、来週の月曜日からどんな顔をしてバスに乗れば良いのか…と。 「あわっ!?」 せっせめて、名乗っておけばよかった…。 と考えるも、すでに時遅く。 次の月曜日から、自転車通学に変えたのは言うまでもない。 そしてバスが通る道を避けて、細道を通るのも。 前へ |次へ |
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