《MUMEI》 「ふぅ…」 さすがに空気の冷たい時に下ると、ノドも心臓も痛くなる。 深呼吸を何度かして落ち着いたところで、再び自転車に乗ろうとしたら…。 「あっあの」 「えっ?」 聞き覚えのある声に驚いて顔を上げると…彼が、いた。 「えっ、なっ何で?」 自転車から降りると、彼は駆け寄って来た。 「よかった、会えて…。バスの窓から見かけて、もしかしてと思って、待ってたんだ」 うっ! みっともないところをっ! 「あの、コレ。お返し」 そう言って彼はキレイにラッピングされた袋を差し出してきた。 「えっ? あっ、もしかしてチョコの?」 「うん」 律儀だなぁ。 確かにホワイトデーも日曜日だから、金曜日に渡す人は多いだろうけど。 「あっありがとう。ゴメンね? 何か気を使わせちゃったみたいで」 受け取ろうと手を差し出したら、いきなり引っ張られて、気付けば彼の腕の中にいた。 「…えっ?」 「あの、さ。あのチョコ、本命のだって、うぬぼれても良いんだよな?」 「あっ…」 わたし、何も言わずに渡しちゃったから…。 「…キミに彼女か好きな人がいなければ、そう思ってくれると嬉しいんだけど」 だから今、あの時言えなかった言葉を言う。 「好きな人は、今、オレの腕の中にいる」 前へ |次へ |
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