《MUMEI》 *. ―――俺と晶子と、おばさんの3人の間に、重苦しい沈黙が訪れた。 不意に、少し離れた席からこの式に似つかわしくない、下世話な男達の笑い声が響いてきた。 振り返って見てみると、親戚の人間と思われる一同が、たくさんの酒瓶を空けて、笑い転げていた。その様子からは、風子の死を悼んでいるようには、到底思えない。男達は完全に酔っ払っていて、顔を紅潮させ、呂律が回らなくなっていた。 明らかに、宴会か何かと勘違いしているようだ。 彼らの醜態を見た俺は、少し気分が悪くなる。 響き渡る下品な笑い声の中、おばさんは、「ごめんなさいね…」と涙声で小さく呟きながら、黒い小さなバッグの中からハンカチを取り出して、目元にそっとあてがった。 俺達は、ひっそりと涙するおばさんに気の利いた言葉が言えず、ただ黙り込む。 涙を拭き終えたおばさんは、どこか気恥ずかしそうに、俺達に向かって微笑んだ。 「なんだか不憫でね…風子ちゃんが居なくなったら、お母さん、お独りになってしまうでしょう?どんなに心細いだろうと思ったら、たまらなくなってね…」 おばさんの言葉に、俺達はまたしても何も言えずにいた。 おばさんは、「せめてご兄弟がいたら、また違ったのでしょうけどね…」と、とても小さな声で呟き、また黙り込んだ。 ―――沈黙が、苦しい。 俺は耐えられなくて、微笑みながら、おばさんに話しかけた。 「小さい頃、風子さんはどんなお子さんでしたか?」 突拍子もない質問に、おばさんは少し驚いたようだった。目を丸くして、「え?」と声をあげる。 . 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |