《MUMEI》

「……田畑か?急な話で悪いんだが、少し厄介な事が起こった。他のファミリー全員に招集掛けてくれ」
それだけを伝えると携帯を閉じた
何の事か当然に理解出来ないでいるシャオへ
畑中は腰まで伸びる長髪を無造作に紐で結えながら
「ちょっとびっくりさせ過ぎたかしら」
シャオを怯えさせる事のないようにと、女言葉で笑みを浮かべて見せる
だがそれも一瞬で消えて失せ、暫くして店に数人の男たちが入ってきた
「全員来たぞ、畑中。それで?話してのはなんだ?」
田畑の問い掛けにその場の全員の視線が畑中へ
ソレに畑中越しにとはいえ中てられ
彼の背後に身を潜ませながら、黒服達の会話を唯聞くしか出来ない
「本城が、拉致られたらしい」
畑中が事の次第を説明すれば、ざわつく声が起こる
「あいつにしては珍しいポカだな」
ざわつく周りを制し、田畑が口を割って入れる
その田畑の物言いに頷きながら
「……フェアリーテイルの件に奴を関わらせた俺の責任だな」
溜息と言葉を同時に吐いていた
だが後悔も既に遅いのだと手荒く髪を掻いて乱しながら
「……とにかく、全員すぐ本城奪取に動いてくれ。手段は選ばない」
行け、との声でその場に居た全員が一斉に散っていく
空になり静けさしかなくなってしまった室内
驚きに呆然としているシャオへ
「びっくりしちゃった?これが、私の本当のお仕事」
畑中は作ったソレで笑い掛けてやると、シャオの頭へ手を置いた
恐いかを問われ、、シャオは咄嗟に返事を返す事が出来ない
「……少し、あいつの話をしましょうか」
何も言えないでいるシャオ
取り敢えずは座る様椅子を勧めてやり、畑中もその向かいへ
そして煙草に火を付けながらゆるり話す事を始めた
「シャオちゃん、あなたどうして本城に付いて行ったの?」
「え?」
畑中からの問い掛け
何故あの時、自分は本城に連れて行かれる事を望んだか
今改めて考え、だが明確な答えなど見出す事は出来なかった
只、差し伸べられた手を、取りたかった
彼の手を取れば何かが解る様な気がして
本当に無意識にその手を取っていたのだ
「……基が私の処に来てくれた時、目の前の世界が一気に開けた気がしたの。暗くて寂しいしかなかったあの場所が、明るくなった気がしたの」
気のせいかもしれないけれど、と顔を伏せるシャオ
理由など無く、唯純粋に本城を求めるシャオに
畑中は微かに肩を揺らし、そしてすぐに溜息にそれを落としていた
「……あいつには勿体ない位いい子。本当、可愛いったらないわ」
「あの……」
「あなたには話してもいいかもしれないわね。無関係な話でもないんだし」
畑中の言葉に軽く首を傾げていたシャオへ、更にその声は何かを語ろうとする
今から何が語られるのかとシャオはつい構え、居住まいを正していた
「……あいつの母親はね、あなたと同じフェアリーテイルの持ち主だったの」
「え?」
畑中から語られる突然の過去
シャオは聞かされたソレに驚き眼を見開いて
動揺した表情で問う
だが畑中はそれ以上語る事はせず、緩く首を横へと振って見せると
「これ以上は私が話していい事じゃない。あいつの口から直接聞きなさいな」
「基、から?」
「そう。あなたになら、きっとあいつは話してくれるわ」
根拠のない自信に畑中は胸を張る
シャオに取ってはそれが本城との唯一の繋がりな訳で
自身の髪を徐にシャオは掴みながら
決めた胸の内で強く前を見据えたのだった……

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