《MUMEI》
焦る気持ちとお正月
「ふぁ〜、朝っぱらからなにしてんねん」

「帰る支度や」

「そんなん帰る日でえ〜やん」

「今日が帰る日やもん、…よし、出来た」

パンパンに詰め込まれたボストンバッグのファスナーを無理矢理閉めて完成。

立ち上がり振り向くと


バッチ〜ンッッ!



「うああああぁあッッ!!」


「こんの馬鹿息子があッ!訳吐かんかワレッ!」


「わ…訳え?」


「女か?クソガキのくせに生意気に女かあ〜?」


うちのオカンは元レディースの総長です。

めっちゃ怖いです


俺は殴られた頬を押さえながら



「…はい」



と、正直に返事をした。




「寂しいとか言われたんやろ貢」

「おかあちゃんちゃうやろ、貢が寂しくなったんやろ」


「「どっちなん」」

「…どっちもです」

はあ…やっぱり元旦から帰るのは無理みたいだ。
久しぶりに一緒の正月迎えてんのにとか、世界一の親不孝者とか散々言われつづけすでに二時間経過。
もう太陽はすっかり上がりきり始発どころかもう何本も電車は出発しまくっているだろう。

今頃聖ちゃん待ってるんだろうな。
始発から計算してもしかしたら駅まで来ちゃうかも。
ああ聖ちゃん
会いたい…

可愛い聖ちゃんを抱きしめて早くセックスがしたい…。


「で、貢がそんなに入れ込む子ってどんな子なん?あんなに硬派だった貢落とすんじゃやっぱりレディースの総長なんやろ?」

「違うわ!普通の高校生や!」


俺が硬派って、それは誰のせいなんだ!
伝説の総長の息子ってだけで中学に入った頃から喧嘩売られまくり、ガキの頃からオカンに仕込まれた拳で俺は負け知らずだった。

おかげで女の子は怖がってちっとも寄り付いてくれなかった。
中には近寄る俺のオカン系の女の子もいたけど、年中しゃしゃり出てくるオカンに速攻追っ払われてしまった。
気付けば俺は硬派なチームの総長になっていた。

自分の意思じゃなかった。
俺はこのままじゃいけないと思ってた矢先、親父が長野に転勤になって、さらに俺はオカンからも離れる決心をしたのだ。


そして上京して俺はついでに関西弁も捨て、優等生長沢貢に生まれ変わった。



これは今更崩したくない。

このおかげで聖ちゃんを手に入れたのだから…。(本人がそう思ってるだけ)



だから、


だから…

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