《MUMEI》

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―――薄暗い廊下を、ゆっくり歩く。



滑らかに輝く大理石の床が、歩く度に靴音を虚しく響かせる。

澤井家の参列者達は、ぞろぞろと思い思いのスピードで、先を歩く女性職員のあとを追いかけた。

纏まりのない靴音を聞きながら、俺は晶子と並んで歩く。

二人とも口をきかなかった。

話すことが、何も思い付かなかった。



やがて、一行は収骨の間に案内された。

そこは天井も低く、あまり広くない部屋だったが、参列者の人数が少なかったので、全員入ることが出来た。

部屋内には先ほどの風子の遺影と、小さな祭壇が設えられていて、その隣脇には、喪主である風子の母親と住職が控えていた。


母親は魂が抜けてしまったように、虚ろな目をしていた。


髪の毛は所々ほつれていて、目元辺りの化粧が、少し崩れていた。もしかすると、泣いたのかもしれない。

あの、炉前ホールで姿を見かけた時には、まだしっかりとした顔つきをしていたのに…。


彼女の姿があまりに哀れで直視出来ず、思わず目を背けてしまう。

そのうち、黒い制服を着た男性係員が俺達の前に現れ、遺影に向かって深く一礼してから、俺達の方を見、また頭を下げた。

そのあと彼は、部屋の奥の引き戸を開ける。すると、遠くから重々しい台車の車輪の音が、段々とこちらに近づいてくるのが判った。
俺達は、音がする方へ目を向けた。


係の人が大きな台車を押して、部屋の中へゆっくりと入って来る。

鉄製の重厚なその台の上には、

真っ白な、骨が、あった。


それを目の当たりにして、俺は息を呑む。


…風子の、骨だ。


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