《MUMEI》

.

俺達の傍にいた係員が、その台車に向かって一礼をする。俺達もそれに合わせて少し頭を下げた。

台車は、遺影の真正面に運ばれ、みんなによく見えるようになった。


まるで台の上に寝そべっているように、風子の骨はきれいに形を残していた。生前の頃の面影を感じさせる、華奢な骨。たぶん、係員が並べたのだろう。その骨の足元には、頭蓋骨の破片が、元の形が判るようにきれいに置かれている。


風子のすっかり変わり果てた姿を見て、誰かがすすり泣き始めた。

「収骨の前に、骨の説明をさせていただきます…」


しっとりとした空気の中、男性係員による骨の部位の説明が始まった。彼の説明は卒がなく、とても判りやすいものだったが、俺の頭がぼんやりしていたことと、彼の独特な淡々とした抑揚のせいで、ちっとも頭に入って来なかった。


―――信じられなかった。


あの、清らかな風子が、


全く精気を感じさせない、こんな無機質なものになってしまったなんて。



全ての説明が終わると、係員は菜箸のような長い箸を二組取り出して、「…では、収骨を始めます」と呟き、その箸を風子の母親と親戚の一人に手渡した。

それと同時に、住職の読経が始まる。


.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫