《MUMEI》 . 二人が骨を箸で拾い上げている間に、係員が真新しい壺を台車の端っこに置いた。骨壺だった。 淡いブルーを帯びた、優しい色づかいの陶器の壺。その色は生前、風子が大好きだった色らしい。 ―――その滑らかなブルーは、 まるで、遠い昔、 まだ、俺達が高校生だった頃、 校舎の屋上で眺めた青空に、よく似ていた。 収骨用の箸は次の人に手渡され、どんどん壺に骨が丁寧に納められていく。先程、控え室で酔っ払っていた男達も、今は厳かな面持ちで、骨を拾い上げていた。 風子とは血の縁がない俺と晶子に、その順番が回って来たのは、最後の方だった。 俺は晶子とペアになり、台車の傍に寄った。台車には、もうあと少ししか骨が残されてなかった。 住職の、お経を読みあげる平淡な声だけが、耳にこびりつく。 骨を拾う前に、俺は一度だけ、風子の母親を見た。彼女は黙ったまま、まっすぐ俺達の手元を見つめていた。それ以外は何も見えていないというように。 俺は晶子と示し合わせて、箸で骨を掴んだ。か細い、脛の骨だった。 骨を落とさないよう、慎重に骨壺まで持っていき、ゆっくり中へ納める。その手が、微かに震えていた。 俺達は箸を次の人に手渡し、それから風子の骨壺に合掌した。 目を閉じて、祈る。 …風子。 君は、恨んでいるだろうか。 たったひとり、苦しんでいた君を、助けることが出来なかった、俺のことを…。 . 前へ |次へ |
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