《MUMEI》

女の子はすでに殺されてしまったんです。

もう…遅いのです。

全てが。

犯人のご両親は、わたしの母と兄が顔を上げさせました。

そして次々とご焼香をするのに、犯人は何もしません。

ただ遺影の前に立ち―笑いました。

会場内がざわめく中、犯人はお父様に殴られ、吹っ飛びました。

けれど笑みは絶やしません。

警察の人に掴まれ、無理やり寺から追い出されるような形になってもまだ、笑顔でした。

…わたしの中で、怒りが沸き起こりました。

すでに済んでしまったこととは言え、せめてっ!

せめて、後悔してほしかった!

なのにアイツはっ!

わたしは母の言いつけを守らず、お寺から飛び出しました。

そして車に連れ込もうとされている犯人の腕を掴み、こっちを向かせました。

「―何?」

犯人はふてぶてしそうな態度をしました。

―ならもう、抑えることは無いでしょう。

「…一つ、言いたいことがありまして」

「何だよ? 恨み言?」

「いえ、済んでしまったことを言うつもりはありません。ただ、これから起こりうることについて」

「おっお嬢さん」

警察の方や、犯人のご両親の前で、わたしは犯人を指さし、こう言いました。

「あなた、もうすぐ死にます。それも『殺してくれ』と言わんばかりの苦痛を以て」

犯人の目が、大きく見開かれました。

「おいっ!」

兄の声で、わたしは我に返りました。

「…では、よき旅路を」

犯人に頭を下げ、わたしは、戻りました。

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