《MUMEI》

「オレはやっぱりココが好きだからさ」

「うん、知ってる」

彼がここへ来るのは、わたしに会いに来る為もあるけど、この街を愛していることをよく知っている。

「お前、地元の大学通うんだろ?」

「うん」

「だから、オレも同じ大学に通う」

「えっ…」

彼は真剣な顔になり、わたしを優しく抱き締めた。

「いい加減、お前に不安を与えてばっかじゃダメだと思って…。でもオレの頭じゃ、あの大学は到底ムリだから、友達に勉強教えてもらってたんだ」

「でっでもそれなら塾に行けば…」

「アホッ! そんな金があるなら、お前に会いに来る!」

間近で怒鳴られたけど…嬉しい。

「最近になって、ようやく成績が上がってきてさ。でも…同級生に勉強習ってるなんて、カッコ悪くて言えるかよ…」

あっ、付き合いって、そういうこと。

「だから…もうちょっとだけ、ガマンしてくれ。大学は絶対合格する! そしたら…!」

彼はわたしの目を真っ直ぐに見た。

「いっ一緒に暮らそう」

「それって…」

「それなら絶対に、不安にさせないだろう?」

涙が自然にボロボロとこぼれた。

「おっおい!」

「…バカ」

涙を拭いながら、わたしは彼にしがみついた。

「バカって…。ああ、そうだよ。オレはバカなんだよ」

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