《MUMEI》 . 俺はそれまで付き合っていた彼女と別れ、大学の後輩だった女の子と同棲していた。 ―――その日はたぶん、会社が休みで、 彼女と夕食を終えて、二人でぼんやりテレビを見ていたと思う。 突然、俺の携帯が鳴った。風子からだった。 滅多に電話なんかしてこない彼女が、こんな夜遅くに一体どうしたのだろうと不思議に思いながら、それに出た。 「もしもし?…」 呼び掛けたが、最初は無言だった。訝しく思い、もう一度、今度は大きな声で、「もしもし?どうした?」と尋ねると、 数秒の間のあと、 「たすけて…」 弱々しい風子の声が、微かに聞こえてきた。 俺は驚いて、「何?どうしたんだよ?」とさらに問いかけると、風子はいきなり泣き出した。 「お願い!助けて!!助けて、修くん!」 半狂乱になっている風子から、なんとか居場所を聞き出して、訳の判らぬまま、俺は「すぐ行くから待ってろ!」と、怒鳴るように言って急いで電話を切った。 それから俺は適当なジャンパーを羽織り、車のキーを持つと、リビングで一緒に寛いでいた彼女に、「ちょっと出かけてくる」と一言断ると、物凄い勢いでアパートから出た。 ―――車を飛ばしている間中、 嫌な予感が胸に渦巻いていた。 風子の、あの取り乱し方は、普通じゃない。 …神様、どうか。 祈る気持ちで、俺は夜の街中を、疾走した。 風子から聞き出した場所は、俺が住んでいるアパートから、車で10分程の、ひと気のない閑静な住宅街。 その一角にある、小さな児童公園だった。 公園の前の通りに車を停めると、俺は急いで車から降りた。 真っ暗な公園の中を見回すと、 風子が独りで、ベンチに座っていた。 彼女の姿を見つけてホッとしながら、俺はベンチに近寄っていき、 そして、 悲鳴を飲み込んだ。 . 前へ |次へ |
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