《MUMEI》

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風子はそんな俺の心を推し量るように、じっと見つめて、それから、「ありがとう…」と囁くと、車から降りてアパートへ帰って行った。


彼女が部屋に入ったのを確認してから、俺は車を出した。




実際、風子の身に何があったのか、誰にやられたのかは判らなかった。俺も無理やり問い詰めることをしなかったし、本人もその件に関しては一言も話そうとしなかった。

彼女の名誉を守る為に、俺はこの日の事を誰にも言わなかった。仲の良い、あの晶子にですら。




―――それから、間もなくして、




藤川先輩が死んだとの報せが、俺の元に届いた。




原因は、事故死だった。

藤川先輩はある夜の帰宅途中、駅のホームから誤って落下し、運悪く快速電車に轢かれてしまったそうだ。あちらこちらに先輩の肉片が飛び散り、その現場は惨憺たるものだったらしい。警察の見解では、当時、先輩が酔っ払っていたことや、有力な目撃情報がなかったこともあり、よくある転落事故として簡単に片付けられたという。

俺は藤川先輩と仲が良かった訳ではなかったが、同窓の友達からそんな噂を耳にしていた。


…風子はどうしているのだろう。


曖昧ではあったが、彼女は先輩と付き合っていた。あんな『事件』があった後、さらに先輩を失ったとなれば、彼女の精神的ダメージは相当なものに違いなかった。

急に心配になり、俺は晶子を誘って、風子に会いに行った。もちろん、あの『事件』のことは晶子に伏せたままで。



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