《MUMEI》 . 俺達を乗せたバスは、午前中、告別式をした斎場にたどり着いた。 喪主である風子の母親の、簡単な挨拶の後、解散となった。 解散後も参列者達は斎場に居座り、親族達と最後の挨拶を交わしていた。 部外者の俺達は、引き上げた方が良いと思い、風子の母親に挨拶にいったところ、 「お渡ししたい物があるの。ちょっと待ってて貰える?」 と、いきなり言われ、戸惑った。 しばらくして、母親はひとつの紙袋を俺に差し出した。 訝しんでいる俺に、彼女は弱々しく微笑む。 「風子の遺品の中に、まざっていたの。あなたに渡そうとしていたみたいで、一緒に置いてあったのだけど…」 …風子が、俺に? そう言われてもピンとこなかったが、とりあえず紙袋を受け取り、中を覗いてみる。 ―――中に入っていたのは、 俺のジャンパーと、 一枚の、封筒だった。 顔を上げると、母親はまだ微笑んでいた。 俺は急いでジャンパーと封筒を取り出し、確認した。 ジャンパーは、あの『事件』の日、風子の肩にかけてあげたものに違いなかった。 そして、 封が切られていない真新しい封筒の、その表書きには、 懐かしい、風子の優しい書体で、 『片倉 修平様』 と、丁寧に書かれていた。 茫然としている横で、晶子が俺の手元を覗き込んできた。 「遺書…?」 ―――風子は投身自殺を計った。 高校生の頃、俺達がよく過ごしていた、あの校舎の屋上から、身を投げたのだと、以前、話を聞いた。 屋上には彼女の靴以外、何も残っておらず、遺書らしいものもないという話だったのに。 晶子の、その呟きを聞き、俺はまた、母親を見た。彼女は全てを悟ったような穏やかな声で呟いた。 「風子があなたに遺した、最期の手紙です…どうか、読んであげてください」 母親の目が、涙で潤んだのが判った。 . 前へ |次へ |
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