《MUMEI》 . ―――晶子と駅で別れてから向かったのは、かつて通っていた、懐かしい高校の校舎。 厳かな雰囲気でそびえ立つ、その古びた校舎には、俺達3人のたくさんの思い出がつまっている。 そして、この場所こそが、 風子の手紙を読むステージとして、最適だと思ったのだ。 来賓用の駐車場に車を停め、外に降りた。 もう授業が終わっているようで、生徒達の姿はすでに見当たらず、閑散としていた。時折、グラウンドの方から、元気の良い掛け声が聞こえてくる。おそらくは、運動部によるものだろう。 俺は校舎へ向かって歩き、一階にある事務所で入館の手続きを取った。OBであることを伝えると、事務員は快く迎え入れてくれた。 ―――日は陰り、薄暗く長い廊下。 紙袋をぶら下げながら、ゆっくり独りで歩く。 事務所で借りたスリッパの、軽い足音がやたら反響しているようで、それが何となく滑稽に思えた。 そのまま廊下の突き当たりまでやって来ると、目の前に階段が現れる。 屋上まで続く、階段だった。 かつて、俺達が通いつめた、あの秘密の場所に続く道。 昔と何ら変わっていない校舎を感慨深く思いながら、俺はその階段をゆっくり登り始めた。 ―――そういえば、 風子の訃報を聞いた時も、 俺はこうして階段を登っていた…。 ふと、踊り場にある窓を見上げた。 窓の外には、セルリアンブルーの空に浮かぶ太陽が、キラキラと美しく輝いていた。 その日の光に照らされて、一段一段踏みしめながら、俺は次第に記憶の波に捉えられていく…。 . 前へ |次へ |
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