《MUMEI》 *. ―――休むことなく、校舎の4階まで薄暗い階段をひとつひとつ登って行く。 昔は一段飛ばしで駆け登っていたこの階段も、今はしっかり足を踏みしめていなくてはならない。俺も歳を取ったのだと、時間の流れを痛感する。 4階までやって来たとき、俺はさらに上に続く階段を見上げた。 ここから先は、踊り場にも灯り取りの窓はなく、昼間でも真っ暗だった。 この階段を登りきれば、やっと屋上にたどり着く。 俺は紙袋の持ち手を握り直し、少し上がった呼吸を整え、最後の階段を登り始めた。 ―――俺がまだ、高校生だった頃は、 屋上に続くドアの鍵が壊れていた。だから、自由に出入り出来た。 今も、それは変わっていないだろうか。 風子は、この屋上から飛び降りて自殺した。 もし、それがきっかけで鍵が直されていたなら、屋上に出ることは叶わない。 出来ることなら、それだけはどうしても避けたかった。 階段を登りきり、屋上のドアの前に立つ。 所々錆び付いた金属製のドアには、『立ち入り禁止』の古びた貼り紙が素っ気なく貼り出されていた。 …神様。 俺は、祈るような気持ちで、ドアノブを握り、 ゆっくり、回す。 俺の心配をよそに、ノブは引っ掛かることもなく、完全に回りきり、 それと同時に、重々しくドアが開いた。 ドアの隙間から、明るい日射しが差し込んで、暗い階段を照らし出す。 俺は眩しさに目を細めながら、 ゆっくりと、その光の中へ歩み出した。 . 前へ |次へ |
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