《MUMEI》

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―――屋上は、昔と何一つ変わっていなかった。



俺はゆっくりした足取りで、中央まで躍り出る。優しい風が、俺の髪を撫でて、通りすぎていく。

遠くから、わぁっ!っと歓声が上がった。きっと、グラウンドにいる運動部のものだろう。


俺は適当な場所で床に座り込み、紙袋を抱えた。


中から、ジャンパーと、風子の手紙を丁寧に取り出す。


ジャンパーを床に置き、その手紙を改めて眺めてみた。


『片倉 修平様』


そう書かれた、表書き。懐かしい、風子の丁寧な文字。

ひっくり返して、裏面を確認する。そこには何も書かれていない。
また表にして、風子の字を眺める。


…ここに、風子が遺した想いが綴られている。


早く内容を知りたいような、でも覗くのが怖いような複雑な気持ちになった。


再び流れてきた風に乗って、運動部の元気な声が聞こえてきた。


…迷うな。

もう、逃げるな。


そう自分に言い聞かせ、俺はゆっくり深呼吸をして、手紙の封を切った。


封筒の中には、薄手の便箋が数枚、きれいに折り畳まれた状態で入っていた。

震える指でそれを取り出し、ゆっくりと開く。

便箋は、風子の文字でびっしりと埋まっていた。



俺は、次第に高鳴る胸の音を無視して、


風子の手紙を、読み始めた…。



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