《MUMEI》

「なに持ってるの。」

座席を倒したままで国雄がゆっくりこちらに首を傾げる。


「機関車……こんないいもの捨てられないよね。」

ピカピカに磨いて飾ろうかな。


「売れば?」


「……その発想は無かったよ。」

思わず吹き出してしまった。
捨てるか持つかしか考えたことが無かった、やっぱり傍に国雄が居てくれて良かった。


「シワになる。」

眉間に人差し指を刺される。


「胸の奥にね、叫びたい衝動が常に潜んでるんだ。
それをどうにか閉じ込める術を探してた……いっぱい迷惑かけたね。」

俺の足りないものは国雄が補ってくれてて、今更有難うって、言えないくらいに俺の中に当たり前に居る。


「現在もかかってる。」

反論出来ない。


「……ぎゅうっとして。」

国雄の触れたとこから難解な問いが解けてく。
唇も詳しく解かれた。


「ぎゅうってしてからキスもするよね。」

舌先で口の端を嘗めながら彼は明解な答えをくれる。


「今度、休み欲しいな。父さんと茉理となっちゃんと四人で出掛けるんだ。」

おねだりしてみたり。


「湯けむり親子ぶらり旅事件簿?」

仕事になってますよ、まねいじゃさーん……。

そして結局、休みは取れたのけれど、四人で出掛けるのは叶わなかった。
休みの日は父さんの葬式だったからだ。

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